ショートショート 強烈に音がうるさい時計

 僕の家の玄関には先祖代々伝わる時計がある。それほど大きくもないのだが、古いホールクロックというらしいネジを巻く機械式である。ネジを巻くのが僕の担当でチビな僕はいつも踏み台を持っていってネジを巻いている。巻くのを忘れると機械ならぬ奇怪な音でネジを巻いてくれ〜と言うような断末魔のような音が大音量で聞こえる。このクロックかなり、相当、いや無茶苦茶な音量で音がするんだ。
掃除機をかけていても「チクタク」と音が聞こえる、時報なんて夜中に驚いて飛び起きてしまうぐらいの音量で、なんでかな〜まるで脇役のくせに主役を名乗りたがるうざい系脇役みたいに。
でも、どうもおかしいのは、友達が遊びに来た時にそんな話をしたら「えーそんなの聞こえないよ? 」と不思議な顔をする。こんなに大きな音でガンガン聞こえてるのにである。「お前耳悪いんじゃね? 病院行けよ! 」とつまらないことで喧嘩になる。
友達はいつも6時が門限なので、5時になったら「そろそろだねー」と言い5時半になったら「帰ったほうがいいよ」と伝えてあげるのがいつもの事。
 伝えると決まって「なんでそんなに時間がわかるんだ?ゲームしてるのにすごいな」と感心されるが、こんなに大きい音でなってるのに気づかんお前がおかしいんじゃ!といつも心の中で叫んでいた。
ママの金切り声より、飛行機の着陸音より、街中のトラックの通り過ぎる音よりでかい音なのになんで?絶対耳くそいっぱい詰まってんだな。ウンウンと勝手に納得していた。
ある日ふと妙なことに気がついた。朝起きる時の音が変化するのが感じ取れた。いつもながらカツカツとでっかい音だが、寝てしまえば聞こえないはずなのに決まって7時になると耳元で聞こえやがる。しかもボーンボーンが嫌味のようにでかい。数えると8回?「なんでやねん?」とつっこみながら眠い目をこすって寝坊したかと思ったがしっかり7時を指している。その瞬間、あれ?刻む音が少し小さく感じる。おかしいなーこの時間時計もさることながら母さんが雷のように叫んでるはずなのに。
 とりあえず怒られる前に起きてしまったので、あまり気にせず今日の時間割表を見ながらランドセルに教科書とノートを入れていると、頭が真っ白になり血の気が引いた!「しゅ・・・宿題・・・! 」しかもあの大嫌いなカエルのような脂っこい顔をした沼田(先生)のねちっこい顔が目に浮かぶ。しかもよりによって苦手な社会!時間がかかるし友達のノートを真似て書くとすぐ分かっちまう。前にもばれたし。
「やっちまったー」(ザザーと血の気が引く音)
放課後に1時間ほどお小言をたっぷり嫌味交じりに聞かされるのだ。
その時だった、また時計がなった、不思議なことに今度は6回・・・。思わず「なんでやねん。」と漫才風ツッコミをしてしまったが時計を見ると確かに6時である。あれ?さっき見た時7時だったはずなんだけど壊れてんのかな?
 ひとまず顔を洗い、リビングに行くと母さんだけがまだご飯の最中で味噌汁の具を仕込んでいた。僕に気づくと「あら早いね、珍しいじゃん」僕は「もう7時だよね?」というと、母さんは青くなりテレビをつけた、右の上の方にしっかり6:03という文字が浮かんでる。「もう!びっくりさせないでよ。遅刻したかと思った!」母はいつも僕より5分早い7時20分ごろ家を出るので、今のタイミングで7時だと絶対間に合わないのだ。いつも家のことで会社を遅刻がちなので何もない時には人より30分早く着くように出社するのが日課だ。
やっぱ寝ぼけてんのか?と思いながら、この時間なら宿題間に合うな!と思い、ひとまず教科書とノートと筆箱を机の上に展開させ、プリントを広げ取り掛かることにした。かかり出した時、背後でやっぱりカツカツ!と大きな音がする。慣れてるので特段気にしないがリズムを刻んでくれているので心地よく感じる。あれ?嫌にゆっくりだなぁ。カツ・・カツ!まぁいいか、集中しよ!と・・あーやっぱりわけわかんね〜パソコンの電源を入れる。うちはいまだに光回線が来てない地域なのでブロードバンドでネットにつなげるんだけど、まぁ遅いこと遅いこと。少し調べごとをしてもすぐ時間が経ってしまう。
 なんとか全体の3分の2を過ぎたところで父さんが起きた音がした。だいたい6時半ごろ起きるんだけど、まだ30分のチャイムはなっていない。
 やっと最後の課題に差し掛かった時でっかい音がした“ボーン!”30分だ。
あと最後の章、これがまた厄介な問題で、大嫌いな幕末から明治の問題、登場人物が多いからわかりにくい。
でも3択なので、適当に○描いちゃえ!なになに?
1853年に訪れたアメリカの使者は誰でしょう。 
1ワシントン 2ペルー 3ペリー んー誰だっけ???
答えは1と書くと後ろで怒ったようにカツカツ!と頭叩かれたような音がする、あ、違ったか、2かな?今度は機械が壊れそうなガシャガシャって音が混じってくる、3って書くと何も起こらない?
「おもしろ! 」と思わず口に出してしまった。次の問題は
明治維新の改革を進めた3人のうちのもう一人は誰でしょう。
大久保利通・木戸孝允・(  ) 
1坂本龍馬 2高杉晋作 3西郷隆盛
「こりゃあ坂本龍馬だな!漫画で読んだし。」と後ろでまた頭を叩かれるような音がした。しかも耳元が痛い・・・「じゃ誰やねん一体!」って叫んじゃった!
するとチャイムが3回なった。「3番か!」・・・無反応!
 もしかすると教えてくれてる?その調子であと3問解いたところで、7回の音がなった。7時だ!慌てて用意をしてランドセルに詰め込んだ。
おかげで脂ギッシュの沼田先生のお小言は聞かずに済んだ。
 夜ご飯の時にこんなことがあったんだけど3回音聞こえた?と父さんに言うと静かに真面目な顔で答えた「朝のは聞こえてないけど、実は父さんも子供の頃同じ経験があるんだ」と話してくれた。父さんの父さんも同じことがあったらしい。
おいおい代々うちの家系って一体・・・時計が教師かよ。
父さんが追いかけるように「お前、学校でも時計の音しないか?」と聞かれた。
あまり意識してなかったのだが、そう言われてみれば、時計の音がして「うちの時計どんだけ迷惑やねん!こりゃ騒音で訴えられるな」と思ったことが何回かあった。かあさんは「何馬鹿な話ししてんのよ」とちょっと引き気味だったが、どうも父さんの音は大学入試まで続いたらしい。合格発表後ピタリと止んだそうだ。じいちゃんは戦争に行った時、戦地で時計の音がしたそうだ。敵に見つかるかと思いヒヤヒヤしたらしい。
時計が家庭教師?それとも小うるさい幽霊?守護神?そういえばゲームに熱中してる時はうるさいぞ?勉強してる時はうるさかったり静かだったり。しかも、ネジを巻いてない時なんかは断末魔のような叫びを上げやがる。はいはい、わかったわかったと言いながら椅子を持ってきてネジを巻いてやるとまた、威厳たっぷりにカツカツ!とリズムを刻み出す。

それから時が経ち、いよいよ志望大学の入試の日だった。
いつもより少し早く起きて、時計の窓を拭いてやった。ネジを巻き、いつものようにカツカツ!と時を刻んでいた。その時まだ長針が3分前なのにチャイムが鳴り出したその音の中に「だ・い・じ・ょ・ぶ・だ・よ」と言う音が聞こえた気がした。
 ふっと笑って行ってきますと時計に向かって一礼して、玄関を飛び出した!

その後も我が家で大きな威厳のある時計は正確に時をカツカツと静かに時を刻んでいる。時々断末魔のような音を立てながら。